裁量労働制は実質賃金の切り下げではないのか

どうも、ナルダルです。

 

最近、裁量労働制が話題ですが、そのことについて。

 

ちなみに、先に言っておくと、自分は裁量労働制導入に慎重派です。

裁量労働制は、基本労働者を酷使するためのシステムだと思っています。

 

さて、そもそも裁量労働制とは何か?

裁量労働制

実際に働いた時間でなく、あらかじめ決められた労働時間に基づいて残業代込みの賃金を払う制度。それ以上働いても追加の残業代は出ない。仕事の進め方や時間配分をある程度自分で決められる働き手に限って適用できる。研究開発職など専門性の高い仕事か、企業の中枢で企画・立案などの仕事に就く人が対象。

(2017-12-27 朝日新聞 朝刊 1総合)

 

 つまり、単純に言えば、みなし残業代とか年間報酬みたいな形で残業代込の賃金を最初に確定させる方式ですね。

 

今、この方式の対象職種を拡大する法案を巡って、国会が紛糾してますが、この法案に対して実際の国民はどれぐらい支持しているのだろうか?

 

YAHOO!トピックスの口コミなんかでは結構賛成っぽい意見が多いように思われる(全部見てないけど)。

 

 

 

まあ、それはとりあえず置いて、裁量労働制を導入することに賛成する意見の根拠は何かを見てみた。

 

 ・日本の労働生産性が低いのは、ダラダラ残業が多いからで、その是正に効果的。

 ・成果を出せば、短い労働時間で済むので、ワークライフバランスが確保しやすい。

 

こんなところでしょうか。

 

しかし、本当のところ、この改革で割を食うのは確実に労働者サイドであることにどれほどの人が気付いているのだろうか?

 

一応、建前としては、内閣府の「働き方改革会議」の資料には以下のようになっています。

(意欲と能力ある労働者の自己実現の支援)
• 創造性の高い仕事で自律的に働く個人が、意欲と能力を最大限に発揮し、自己実現をすることを支援する労働法制が必要である。現在国会に提出中の労働基準法改正法案に盛り込まれている改正事項は、長時間労働を是正し、働く方の健康を確保しつつ、その意欲や能力を発揮できる新しい労働制度の選択を可能とするものである。
• 具体的には、中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直しや年次有給休暇の確実な取得などの長時間労働抑制策とともに、高度プロフェッショナル制度の創設や企画業務型裁量労働制の見直しなどの多様で柔軟な働き方の実現に関する法改正である。この法改正について、国会での早期成立を図る。

                「働き方改革実行計画概要」P.15 

 

 つまり、「あくまでも長時間労働抑制が目的ですよ」と言っているわけです。

 

 確かに労働時間は短縮化する可能性がないとは言えません。

 しかし、一方で確実に賃金が減少すると考えられます。

 

 何故、そう言えるのかを考えてみます。

 

①今回追加が議論されている「法人提案型営業」とは?

 

 現在、裁量労働制が適用できる職種は、専門業種か企画業種に限られています。

 

 それぞれ、単純な時間で効果を測れない仕事、自身に労働時間そのものやその配分を任せた方がより成果が出ると考えられる業種とされています。

 

 今回の法案では、そこに「法人提案型営業」も加えようとしています。

 法人提案型営業とは、要は法人相手の営業全てですから、これまでに比べて対象となる労働者の数は一気に増加します。

 

 私がしていた銀行の法人営業やMRなども当然含まれるでしょう。

 というか、個人相手の営業職よりも実際は多いのではないでしょうか?

 

 

②法人提案型営業に裁量労働制を導入するとどうなるか?

 

 さて、これまでの業種もノルマは当然ある会社も多く存在したと思いますが、おそらくノルマを定めにくい仕事であったことも確かで、一応仕事の本質的にも単純な数値上の成果で現れない業種が中心であったかと思います。

 

 しかし、法人提案型営業は違います。

 ハッキリと数値の目標が与えられ、一般的にはその達成は必達とされるでしょう。

 会社によっては残業してでも成果を出すように求められる訳です。

 しかし、現在は36協定によって残業の上限は定められているため、それ以上は働かせられません。

 

 ところが、裁量労働制になるとどうでしょうか?

 時間外は制限が無くなるので、ノルマを達成するまでとにかく働きつづけることになりはしないでしょうか?

 

 「ノルマを達成するのはビジネスパーソンとして当たり前だ。何を甘えたこと言ってんだ?」

 

 という意見もあるでしょう。

 

 しかし、よく考えてみて下さい。

 

 ノルマを設定するのは自分ではないのですよ。

 

 ノルマを設定するのは、使用者側で、労働者側ではないのです。

 

 裁量労働制導入によって、時間外の制限という枷が無くなった時、使用者側はどう考えるでしょうか?

 

 自分が使用者側なら「とにかく目指せる最大の数値を達成するよう求める」のではないかと思います。

 そこに時間的にキツイとか、残業代が増えては困るとかの判断がいらなくなるので、遠慮はいらなくなるわけです。

 

 現在は使用者サイドとしても、「成果は上げてほしいけど、反面残業代とかが増えると困るな」というように、バランスを考えてノルマの設定をしているはずです。

 少なくとも、そういう視点は入っているはずなのです。

 

 仮に今と同程度の給与を維持できたとしても、現在を大幅に上回る実績を求められることになる・・・それを理解できているのでしょうか?

 

 それは実質的な賃金の引き下げに相当するのではないかと思います。

 

労働生産性について

 

 「いや、日本は労働生産性が低いんだって。そんなこと言ってるからダメなんだよ」

 

 という意見も多いと思います。

 

 しかし、労働生産性を改善するのに、必要なことは何でしょうか?

 

 法人提案型営業における労働生産性の分子は、付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費です。

 

 つまり、利益が同じでも人件費が上昇すれば改善するのです。

 

 単純に成果/労働時間ではないのです。

 

 そう考えると、労働生産性の問題と裁量労働制は全く議論するべきところが違うのですが、YAHOO!の意見欄などを見ていると、どうも誤解している人が多いように思う。

 

 このまま裁量労働制が法人提案型営業にまで採用されたら、いわゆるブラック企業が増えるような気がするけど、その辺はどう考えられているのだろうか?