読書レビュー⑧~聖なる怠け者の冒険~森見登美彦

書名-聖なる怠け者の冒険

著者-森見登美彦

出版-朝日新聞出版

 

著者紹介

夜は短し歩けよ乙女」で一気に人気小説家になった。

夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」は現代日本を舞台にしつつ、SF的な世界観を持ち込み、現実なのか空想なのかの境界があいまいな作品となっており、そういった不思議な世界をモラトリアム全開の大学生などを主人公に描いている。

ほとんどの作品の舞台が京都ということもあり、古の都・魔都としての京都を意識しつつ、現代小説を書くという意味で特異な小説家と言える。

 

内容

本書は森見作品の基本にある京都を舞台としたSF的現代小説の一つ。

夜は短し歩けよ乙女」で登場した偽デンキブランや「有頂天家族」で登場した土曜倶楽部など、他作品と世界観を共有していると思われる個所がいくつもあって、森見作品のファンにはそれだけで楽しめることだろう。

 

本作品の主人公は森見作品でよく出てくるモラトリアム大学生ではなく、社会人である。しかし、土日は家でゴロゴロするという、やはりモラトリアムな人物ではある。

その主人公が、本作で登場する「ぽんぽこ仮面」というヒーローの後継者に指名され、ある時気まぐれにその扮装をしてしまったところから、加速度的にストーリーが進んでいく。

 

相変わらず、どこから空想でどこから現実かが分かりにくい作品で、現実のように思えたところが実は妄想なのかもしれないというフワフワした感じは森見作品独特だ。

 

森見作品でよく登場するタヌキも黒幕的に登場する。

ハッキリ言って意味が分かりやすいとは言い難いが、森見作品が好きならストーリーそのものよりも、この空気感やフワフワした妄想世界が楽しいのであろうし、その意味で本作は期待を裏切らない内容となっていると思われる。

 

個人的には主人公と玉川さんの関係があまり近寄っていない感じを受けた。

他作品だと何だか知らないうちに深い感情を有するようになるのであるが。