読書レビュー⑥ スペードのクイーン/ベールキン物語~プーシキン~

書名-スペードのクイーン/ベールキン物語

著者-プーシキン

出版-光文社古典新訳文庫

 

著者

ロシア近代文学の父と言われるロシアの国民詩人。

多くの作品を残すが最後は37歳の時に決闘で命を落としており、比較的短命。

最後が決闘で亡くなっているが、それまでの生涯も決闘・賭博・恋愛に彩られた奔放なもの。一方でデカプリストと呼ばれるロシア帝政に対する反対勢力と強い関係を持ち、そういった集団への影響力を考慮し、皇帝から直接検閲を受けるなどの抑圧も受けた。

 

レビュー

本書は題名の通り、「スペードのクイーン」と「ベールキン物語」の2編を収録している。

 

1.スペードのクイーン

スペードのクイーンは単純に言えば、真面目で堅実だった青年がギャンブルの必勝法があることを聞き、それを犯罪を犯してでも手に入れ一獲千金を得ようとし、最終的に失敗するストーリー。

端的に言えば、このようなまとめになるが、実際のストーリーは様々な伏線があったり、現実と非現実があいまいになるような箇所がいくつもあったりして、不思議な作品となっている。

2編の後に出てくる解説では、このスペードのクイーンの中には、当時社会的な動きの一つであったデカプリストやロシア帝政に対する不満などが隠されているという解釈もあるそうだが、そういった前提知識がなくとも特に困るようなことはない。

 

しかし、様々な解釈がありうるということを知るためには、初めは何も知らずに読んだ上で、そういった知識を得て再度読むというのは悪くないのではないと思われる。

 

とにかく不思議なのは主人公であるゲルマンが最後の選択を間違えるシーン。

本来必勝法を聞いたわけだから、その勝負自体は勝ちそうなものだが、そこで最後に負けてしまい、人生を破綻させるわけである。

様々な学者などがこのシーンについて寓意や含意があることを研究しているというのもさもありなんというシーン。

 

いずれにせよ、古い作品であるにも関わらず古さを感じさせないストーリーはまさに古典と言って良い。

 

2.ベールキン物語

ベールキンという作家が書いた小説を発表するという体で書かれた作品。

序文と5つの短編から構成されており、序文「出版社より」、「射弾」「吹雪」「葬儀屋」「駅長」「百姓花嫁」という題名の短編が入っている。

それぞれ独立した内容となっており、それぞれの主題は以下の通り。

 

・射弾-決闘

・吹雪-幻想・結婚

・葬儀屋-あの世

・駅長-家族

・百姓花嫁-恋愛・結婚

 

主に「吹雪」や「葬儀屋」などは幻想的で非現実的なシーンが混じり、ある意味スペードのクイーンとも共通する構成になっている一方、「射弾」「駅長」「百姓花嫁」は現実に足を置き、家族関係を軸にストーリーの展開が図られている。

 

「百姓花嫁」などは自身の親と不仲な隣地の領主の息子と出会うため、貴族の令嬢が庶民に変装して恋愛をするというストーリー。現在でも通じそうな設定であるが、おそらく現在よりもよほど身分の差というものが重要であった時代で、かつ農奴制が色濃いロシア社会であればなおさらであったろうと想像される。

そういった前提に立てば、このストーリー自体がロシア帝政の政治体制に対する不満の表れのようにも読める。

 

スペードのクイーンにおいても、様々な解釈がなりたつとされていたが、このベールキン物語も同様。

「そもそもベールキンとは誰なのか?」など不思議な点が多く、プーシキンがどういった趣旨をもってこの作品を発表したのかを想像するのは非常に面白い。

 

一方で単純に文学作品として見ても、スペードのクイーン同様古さを感じさせず、今の感覚でも違和感なく読めるあたり、さすがは古典というべきだろう。

 

但し、先ほど述べた通り、ロシア帝政の政治体制や当時の社会情勢を頭に入れた上で読んだ場合、また別の顔が見えてくるというのも本作の醍醐味かもしれない。